「愛しい赤ちゃん、死んじゃうん…?」
静葉さんの日記にはそのときの心情が綴られていました。
「お腹の中で元気に動いてるこの愛しい私たちの赤ちゃん、死んじゃうん..?」
翔平ちゃんが静葉さんのお腹にいるときから診察にあたった医師は…
「翔平君の重症さを十分に分かってたので、最善の娩出(出産)のタイミングはいつかというのを最終決定するというのは、かなり難しい選択でした。」(稲熊医師)
これ以上はもう、もたないかもしれない…。翔平ちゃん出産の日は、予定日より2カ月も早く迎えました。
「麻酔される、おなか切られる、赤ちゃん元気に生まれてくるんかなとかいっぱい心配事がありすぎて」(母・静葉さん)
帝王切開の手術が始まってから、わずか30分-。
「大きな声で泣いたんです。オギャーって!」(母・静葉さん)
「それは聞こえたんですか?」(記者)
「聞こえました、聞こえました!(私も)泣いてましたね、ずっと。“(翔平が)泣いたー!!”って言いながら」(母・静葉さん)
初めて目にする、我が子の姿。静葉さんの日記には…
「ただ、息をしただけで、声に反応しただけで、目が合っただけで、こんなにも嬉しいんです」
お腹の中の赤ちゃんはどうなるのか…静葉さんは胸を痛める不安な思いを日記に綴った
出産の危機を乗り越え、翔平ちゃんは予定より2カ月早く生まれた
人工心臓がつなぐ命
来る日も、来る日も病院に通い、その姿を見守り続けました。ところが、病状は悪化する一方。
「もう(人工心臓の)器械がないと生きていない状態。それをずっと見続ける、支え続けるのは辛いものがありましたけど…」(母・静葉さん)
手術を繰り返し、日本で初めて、子ども用の補助人工心臓を左右両方の心室に装着。なんとか命をつないでいますが、常にリスクと隣り合わせです。
「(人工心臓の中に)すごい大きな血栓(血のかたまり)が出来たときがあって、“これ(頭に)飛んでたら、もう脳梗塞だった”って言われて、こわい~!もう毎日この血栓とにらめっこ」(母・静葉さん)
人工心臓に血の塊ができると命を奪う危険性があり、常にケアが欠かせない
翔平ちゃんを救えるただ一つの道…心臓移植
いつ、何があるか分からない…。翔平ちゃんを救える道はもう、1つしかありません。
「“心臓移植”っていうお話を聞かせてもらって。この子がお家に帰ってこれる可能性があるんや~って思ったら、本当にそれにすがる思いで…」(母・静葉さん)
「心臓移植」という一筋の光。それでも、子どもの移植件数が少ない国内で待ち続けることは難しく、アメリカへの渡航を決めました。一日も早く、手術を受けさせたい。資金を集めるため、2人は募金活動を始めました。普段は工場勤めの太志さんも、ネクタイを静葉さんに手伝ってもらいながら慣れないスーツに袖を通します。
「Q.スーツはこの活動をするから?」(記者)
「そうっすね。ほぼ着ることがなかったんで…」(父・太志さん)
募金活動は、まさにゼロからのスタート。この日、2人が向かったのは、静葉さんの地元・奈良です。
「入院の費用とかも高くなって、最初は4億ぐらいいくんじゃないかなと予想はしてたんですね…」(父・太志さん)
海外での移植手術にかかる費用は、3億5000万円。簡単に集まる額ではありません。奈良への移動中、静葉さんの携帯に、翔平ちゃんが入院する病院から報告のメールが届きました。
「“傷から出血があり、微熱。ご飯をあまり食べない。白血球上昇があるので…”また感染しちゃいました。なかなか良くならないなぁ…」(母・静葉さん)
今すぐ息子に会いたい。でも、早く目標金額を達成したい。二つの気持ちで心が揺れます。
「おはようございまーす!」
「いつもありがとうございます!」
「1歳4ヶ月の翔平くんは、心臓移植しか助かる道はありません」
1人でも多くの人に、息子の存在を知って欲しい。道行く人たちに、呼びかけます。結婚するまで幼稚園の先生をしていた静葉さん。教え子や保護者、地元の人たちも応援に駆けつけました。
「心強いですね~。関西に限らず、すごい遠くからのお声だったり、応援があったりするので、届いてるんだって!」(母・静葉さん)
翔平ちゃんは病室の外に出るだけでも、これだけの機器が必要
募金活動へ出かける間にも、病院からの報告メールが。予断を許さない状況が続く
静葉さんの故郷・奈良でも多くの人たちが募金に駆けつけた。翔平ちゃんを守るための活動が続く
生きる希望…心臓移植手術を乗り越えた女の子
翔平ちゃんの母・静葉さんは、ある親子に会いに行きました。
「歩き方…かわいい~」「歩いてるのか、走ってるのか」
大阪府に住む、大林夏奈(なな)ちゃん・4歳。翔平ちゃんと同じ「拡張型心筋症」を患い、3年前、アメリカで心臓移植を受けました。
「向こうで胃を開けて、(移植後も)アメリカいる間はもう全部胃ろうからミルクいれてっていう…」(夏奈ちゃんの母・奈央さん)
「えー、大変だったんですね、じゃあ…」(翔平ちゃんの母・静葉さん)
「私も渡航する前に同じようにテキサスで移植した方のご両親の方によくしてもらって、色んなことを教えて頂いたんで…」(夏奈ちゃんの母・奈央さん)
貴重な、経験者の体験談と、手術に成功した夏奈ちゃんの元気な姿が、静葉さんに勇気を与えています。
「歩いてる、しゃべってる。結構日常で当たり前のことが、夏奈ちゃんがしてることがすごく感激というか、すごいなぁ、奇跡やなぁって。翔平が大きくなったら、あぁ、こうやって歩いて走って、パパとか言うのかなぁ、とか思ったらすごい、なんか、それ見ただけで多分泣くと思います。」
(翔平ちゃんの母・静葉さん)
アメリカで移植手術を受けた大林夏奈ちゃん(4)。今では公園を駆け回れるほど元気いっぱい
翔平ちゃんと同じ病から回復を遂げた夏奈ちゃんの姿は静葉さんを勇気づけた
一番の願い「一緒におうちへ帰ろう」
命の危険をいくつも乗り越え、ようやく見えた“心臓移植”。「生きるチャンスを与えてほしい」と2人は願っています。
「(心臓移植も)もちろん沢山リスクはありますし、お薬も一生服用して、それでもおうちに帰って生活できる。一緒におふとんで寝れるねんな?」(母・静葉さん)
「なぁ?帰りたいな?」(父・太志さん)
「それがね、一番の願いやな」(静葉さん)
できることなら日本で移植手術を受けたいと望む静葉さんと太志さん。ただ、「移植手術への理解」がまだ進んでいないことも背景にあり、日本ではドナー提供者の数が100万人あたり0.9人と、世界の中でも極端に少ないのが現状です。
「しょうへいくんを救う会」
連絡先:06-7710-3850
「3人一緒に家で暮らす」・・・一番の願いが叶う日まで
日本国内でのドナー提供者は各国に比べ少ない