次々と手法を変え現れる「高額転売」
新型コロナウイルスの流行とともに、街からマスクが消えた。必要とする人が増えれば、価格は高騰する、というのが経済原理。マスクの高額転売が始まった。
通常なら1枚10円程度が、2月上旬のショッピングサイトでは1620枚でおよそ32万円。1枚あたり200円になる計算だ。中には、マスク本体は1500円としながら、配送料を2万5000円に設定していたものも。
そしてまた、新たな手法が現れた。大手ショッピングサイトでマスクを検索し、安い順番に並べてみると…
「価格が1円というマスクが出てきます。1円、とても安いですし配送料を見てみても、299円ということでとても安く感じるんですが、3枚購入すると、マスク自体の値段は3円なんですが配送料が897円、つまり299円×3の値段になるんです」(記者リポート)
「マスク3枚を別々に包装して送る」ということなのだろうか。いずれにせよ、これでは1枚300円のマスクを買わされることになってしまう。
適正価格に見せかけ、異常に高額な配送料を取る出品者も
マスクの注文を1つ増やすたびに、配送料もその分が加算される
出品者を追い 中国・上海へ
さらに、オークションサイトではこんなことも。マスク960枚の価格がなんと99億円!さすがにこの価格では落札されなかった。出品者情報を調べてみると住所は、中国・上海。出品者の家を訪ね、出てきた男性に話を聞くと…
記者「ここに出品者の方はいますか?」
男性「いませんよ」
「彼は日本に住んでいます」
記者「元々ここに住んでいたのですか?」
男性「かなり前、10年前にね」
記者「でも住所はここだと…」
男性「戸籍がここにあるからね」
記者「彼は日本で仕事を?」
男性「それは知らないな」
ここは便宜上使われた実体のない住所だったようだ。3月に入り、中国ではマスクが店頭に並び始めたという。
「あ、ありました。この薬局では普通に売ってますね。結構在庫もあります」(ABCテレビ上海支局・南出拓平記者)
一時相場の10倍以上で売られていたこともあったが、工場での生産を増やし、現在は元に戻りつつあるという。
出品者の住所として登録されている中国・上海の集合住宅。事情を知る人はいなかった
上海の薬局。今ではマスクが簡単に手に入る
並んでマスク購入→猛ダッシュの謎
「高額転売」のうまみが少なくなった中国。舞台は日本へと移ったのか?
「午前7時半です。マスクを買うためでしょうか、すごい人数が並んでいます 」(記者リポート)
大阪・心斎橋筋商店街の中にあるドラッグストア。 最近、マスクやトイレットペーパーが品薄で 開店前から長蛇の列…などという光景を よくみかけるようになったが・・・。並んでいるのは中国人が多いようだ。
「まもなく午前9時です。お店のシャッターがあがりました。お店のシャッターが上がってお客さんが続々と中へと入っていきます。みなさん箱型のマスクを手にしています」(記者リポート)
並んでいたお客さんたちの目的はそのほとんどがマスク1人1箱限定だ。
と、その時。
「みんな走ってお店から出ます。あ、いままたひとり走ってどこかへ向かっています」(記者リポート)
マスクを手に入れるなり どこかへ向かって猛ダッシュ!たどり着いた先は… なんと、数百メートル南にある同じドラッグストアの系列店。再び1人1箱限定のマスクを購入し、そして…青いコートの女性が他の女性からビニール袋に入ったマスクを受け取った。さらに、緑のダウンジャケットを着た男性が青いコートの女性に近づき、マスクの箱を渡した。マスク不足が騒がれている中、まさか買い占めているのか?
大阪・心斎橋筋商店街のドラッグストア前には毎朝、開店前から長蛇の列が
マスクを手に入れるとすぐに猛ダッシュで店を出る
手に入れたマスクを別の女性に手渡す姿が
また、他の場所ではこんな光景も…
「先ほどお金のやりとりをしてましたね 。何のお金をやりとりしていたんでしょうか。代わりに買ったということでお金を渡していたということなんでしょうか」(記者リポート)
中国はマスク不足が解消に向かっているはず。もしや、日本での転売を目的とした購入だったのか?金のやりとりをしていたとみられる女性を直撃した。
記者「すみません…」
女性「ちょっと!本当にやめてよ!」
記者「マスクをたくさん買ったのを見かけたので 」
女性「私はそんなにたくさん買ってない!」
記者「でも、一人1個と数量制限ありますよね?何箱も買っているのを見ました」
女性「昨日買った分ですよ。昨日並んで買いました 」
記者「でも今朝から並んで買っていたのを見ましたよ。誰か別の人に頼んで並んでもらってマスクを買わせていませんか? 」
女性「この2人は夫婦で、一緒に並んでマスクを買った、何か悪い? 」
記者「何軒かドラッグストアをはしごして、マスクを買っていませんか? 」
男性「そんなことしていない 」
記者「でも私たちあなたが2軒のドラックストアに並んでいたのを見ました」
男性「・・・・・」
マスクを手渡したあとに、直接お金を渡すやりとりも
金のやりとりをしていた女性は、転売の疑惑を強く否定
3日間張り込み…見えてきた行動
取材班は3日間にわたり、心斎橋の行列を追った。すると、3日とも行列に並んでいた人物を発見した。緑のダウンジャケットを着た男性だ。取材1日目に2箱。2日目は、列に並んだが販売がなく買えず。
そして3日目。再び、マスクを一箱購入した。かごにマスクを入れ自転車で立ち去る男性我々はそのあとを追った。そして…
「いま、緑のダウンジャケットの男性からブルーのデニムジャケットを着た女性に受け渡されました」(記者リポート)
「デニムジャケットの女性、誰かに電話をしています。誰かに電話をしています」(記者リポート)
緑のダウンジャケットの男性からマスクを受けとった女性はこの後一体どこへ?ドラッグストアを1軒、2軒と巡っていく。マスクを探しているのだろうか。
そして、あの緑ダウンジャケットの男性と合流した。他にも何人かと合流。グループでマスクを買い占めているのだろうか。緑のダウンジャケットの男性を直撃した。
記者「すみません。何軒ものドラックストアに並んでマスクを買っているのを見ました。どうしていつも並んでいるのですか?」
男性「今日1軒行っただけです」
記者「ここ数日間あなたが並んでいるのを見かけました」
男性「自分用に1箱、2箱ぐらいしか買っていません」
記者「でも、買ったマスクをデニムジャケットを着た女性に渡したのを見ました」
男性「そんなことしていません。そんな人は知りません」
記者「マスクは自分用ですか?」
男性「誰かに売ったりしていません。自分用です」
男性「仕事でもう行かないといけません」
記者「ここ数日間マスクを何箱も買っているのを見ました」
男性「何箱も?そんなことありません。自分用に2箱買っただけです」
記者「ひとりでそんなに大量なマスクはいらないのでは…?」
男性「知りません」
取材班が男性らに張り込み取材を続けると、不可解な行動が明らかに
男性は買ったマスクは「自分用」だと主張した
本当に自分用だったのか?それとも転売目的だったのか?さらに取材を進めると、ある中国人向けドラッグストアの店員がこんな裏事情を教えてくれた。
「いまはやっていないけど、少し前までうちみたいな中国人向けのドラッグストアが1枚10円のマスクを90円で買い取っていた。いまはマスクが高くても日本人が買いに来る」
マスク不足が叫ばれる中、買い占めた上に、高額で売り飛ばす。本当に必要な人にマスクが行き渡らないその理由の一端が、ここにあるのかもしれない。
中国人向けのドラッグストアでは、日本で購入されたマスクが高額に買い取られていた
転売規制で本当になくなるのか
マスク転売に関する規制は、15日に施行された。スーパーやネットショップから購入した人が1円でも、高く他人に転売すると、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金となる。ネットオークションなどに政府が介入、しかも罰則がつく異例の処置となるが、これを取り締まる大阪府警の捜査幹部は…
「この規制で大手サイトから転売は減少するのではないか。そうなると、市場はツイッターなどのSNSに移ることが考えられる。ここの捜査を強化していきたい」と話す。
規制が施行された今後、マスクがSNSで隠語で取引される大麻のようになる可能性も指摘されている。
罰則がつく異例の措置。果たしてマスクの転売はなくなるのか