よ~く見るとセミの羽がスゴい!
ということで、向かったのは関西大学。クマゼミの研究を続けている伊藤健(たけし)教授に伺います。
「クマゼミの何がスゴいのかがまったく分からないんですけど」(上田アナ)
「ちょっと標本がありますので見ていただきましょうか」(関西大学 システム理工学部 伊藤健教授)
「クマゼミなんですけども、こいつの羽がスゴいんですね」(伊藤教授)
「羽?」(上田アナ)
「はい。人の目ではちょっと見えないぐらいものすごい細かい構造がこの羽の表面にあります。形じゃなく構造です。表面にある構造ですね」(伊藤教授)
「形じゃなく構造・・・?」(上田アナ)
クマゼミの秘密を教わりに関西大学の伊藤健教授を訪ねました
クマゼミの羽の構造に秘密がありました
意味が分からないので、特殊な顕微鏡で、羽を見せてもらいます。顕微鏡といっても、レンズを覗くわけではありません。パソコン画面で見ます。
「あっ、粒々がある。わっ、粒々がある!なんていうのかな、道路工事のパイロンみたいな」(上田アナ)
「そうですね」(伊藤教授)
クマゼミの羽には、よく見ると、無数の「突起」が並んでいたんです。
「大きさ(直径)がだいだい100~150ナノメートル。ナノメートルって聞いたことありますか?」(伊藤教授)
「ないです。ミリメートルまでしか分からないです」(上田アナ)
「そうですよね」(伊藤教授)
突起の直径100ナノメートルは、1万分の1ミリメートル。まぁとにかく小さいってことなんですが、実は この突起がスゴいんです。
電子顕微鏡の画像から不思議な紋様が見えてきましたよ
クマゼミの羽には無数の突起があります
クマゼミの“抗菌”どう生かす?
「この上に細菌(微生物)を撒くと、それらが死んでしまう。つまり殺菌と抗菌の作用を持っていると。これを人工的に作ってあげるといろんなところに活用できるんじゃないかということで、着眼して研究しています」(伊藤教授)
でも、世の中に「抗菌」を謳う商品はすでにたくさんあります。「クマゼミの羽の抗菌効果」が分かったからといって、今さらどう活かせるのでしょうか?
「世の中にある抗菌素材というのは基本的に菌を増やさないための材料が練り込まれています。けれども、持続性がないんです」(伊藤教授)
抗菌のために使われている材料は、銀などの金属、もしくは薬品。しかし、商品を使っているうちに、はがれたり、洗い流されたりしてだんだん効き目がなくなってくるのです。そこで。
クマゼミの研究をすすめる関西大学 システム理工学部の伊藤健教授
抗菌効果があるとされる商品
「もっと新しい観点で抗菌材を作らないといけない。私たちが研究している抗菌材というのはただ単に構造だけあればいいので、そういう意味で、半永久的な抗菌材になる可能性がある」(伊藤教授)
つまり、クマゼミと同じ突起さえ作れば効き目がなくなることを気にしなくて済む。だから半永久的だというわけです。伊藤教授は、「シリコン基板」という、ガラスのような板を使いこの突起を人工的に作り出すことに初めて成功しました。例えば、日常によくいる大腸菌を、突起の付いた板の上に乗せると・・・
「大腸菌がどんどん死んでいっています(伊藤教授)
「ホントだ。踏み付けられたみたいに」(上田アナ)
「そうですね」(伊藤教授)
「なんでこの上にあると死んじゃうんですか?」(上田アナ)
「菌が突起の上にやってくると何かしらの力によって、この菌の膜がひっぱられて、破れて死んでいくんだと言われています」(伊藤教授)
クマゼミと同じ突起構造なら半永久的な抗菌素材をつくれるかもしれません
クマゼミの突起構造をシリコン基板に再現しました
シリコン基板の上に大腸菌を乗せると次々に死んでいきます
ココで素朴なギモン。
「クマゼミ自体も菌から身を守るためにあの構造をしているってことですか?」(上田アナ)
「それは違うんです。もともと羽が透明ですよね。光が当たると反射するじゃないですか。すると、鳥とかにしてみれば、あそこに獲物がいると気づいてしまうんですね、なので彼らは光らない。自分の身を隠すためにほしかった構造なんですね」(伊藤教授)
だから、同じく透明な羽をもつミンミンゼミやヒグラシにも抗菌効果がある一方、茶色い羽のアブラゼミにはないんですって。
透明な羽は光に反射し鳥に狙われます
「私たちの生活に、どういう風にこの技術が役立つと思いますか?」(上田アナ)
「一番、我々がいま考えているのは、病院とかの医療用途。例えば病院の壁や扉に、我々がつくったトゲトゲの壁を使うと、菌が上に付着すればみんな死んでしまうので、感染が広がらないとかですね」
「あとは水回り系ですか、トイレだったりお風呂だったり(伊藤教授)
「不特定多数の人が触れるような物などは?」(上田アナ)
「そうですね。例えば、電車のつり革ですね。女子高生なんかは、あそこ親父がつかまっていたから、あれは触らないとかって言いそうですけど。でも、抗菌がちゃんとあるよって言うたら、もしかしたらつかまってくれるかもしれません」(伊藤教授)
「そうですね」(上田アナ)
はたして私たちの生活に役立ってくれるのでしょうか?
女子高生もつかまってくれるつり革をつくれるかもしれません