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2019年4月2日

人々を癒やした温泉旅館が廃業…撤去か再生か 人気の温泉地で広がる「廃墟旅館」の現状

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 関西の奥座敷に広がる、「廃虚旅館」。 かつて賑わった温泉街は、その輝きを失いました。

しかし、「廃虚」広がる街に、再び火をともす人が…。ABCテレビの島田大記者が、「廃虚旅館」の現状を、取材しました。


熊野古道の旅人を癒やした秘湯

 日本屈指の名湯・白浜温泉(和歌山・白浜町)。そこから、南へ進むこと、およそ30分。風光明媚な海岸線に現れたのが…。


「ええっと、このあたりが椿温泉の中心部なんですかね。あまり人がいませんね。」(島田記者)


いにしえより、熊野古道を訪れる旅人を癒やしてきた、白浜町・椿温泉。豊かな自然に囲まれ、温泉界隈にあった「野生猿公園」から、かわいいお猿さんが出迎えてくれる秘湯は、新婚旅行の地としても人気を集めました。


「いやー、こちらの椿温泉のしらさぎさんのお風呂、いいお湯ですね。ビックリするくらい滑らか!本当にツルツルになりますよこれ!」(島田記者)


しかし、400年の歴史を持つ温泉地も、大きな問題を抱えていました。


「こちらが元湯・椿楼さん。創立明治35年ですか。随分由緒ある旅館だったようですけど。もう玄関見ると、もうやってないんだなと一目でわかりますね。螺旋階段のようなものもあって、中にソファがあって。賑わってた頃は、たくさんの宿泊客がいたんでしょうね。」(島田記者)


椿温泉のシンボル的存在だった、老舗旅館「元湯椿楼」。バブルの頃、団体客を見込み大幅な設備投資を行いましたが、その後、客足が激減。2008年に5億円以上の負債を負い、倒産しました。その後、所有者は何度か変わりましたが、現在も「廃虚」のままです。


「柱もグニャッと錆びついて・・・曲がっちゃって・・・朽ち果てています。ありゃりゃりゃりゃ、うわー・・・50cmくらいありますか、縦。こんなものが落っこってきたら、そりゃ危ないでしょう。」

「いや・・・さすがに営業はしておりません。もうドアは開けっ放しで・・・壁は崩れて、窓枠も崩れて。野ざらし状態ですね。」(島田記者)


現在、椿温泉では、椿楼を含む3軒の「廃虚旅館」が点在。その影響で、かつて賑わった温泉街も、輝きを失いました。椿温泉の住民たちも、複雑な思いを抱えています。


「うちも一軒になってしまった。」(日用雑貨店を経営する住民)

「前はたくさんあったんですか?」

「そうです。お土産屋さんね。ここの前にも、そうだったしね。この隣は酒屋さんやったしね。」


「もう全盛期の頃の賑わいなんて全然やし、限界集落やねって・・・(苦笑)。」(住民)

すぐに撤去できないその理由は…

「廃虚旅館」が、さらに「廃虚」を生む。負の連鎖が広がっていました。


「誰か怪我するとか・・・潰れて落ちて道通れんようになるとか、そんなん、ならんかったら行政も動けんと思う。人の家のもんやからね。」(住民)


住民の命をも危険にさらす「廃虚旅館」。自治体も、無関心ではありません。


「ロープを張ってね、『入るな』とか『頭上注意してください』とか書いたり。」

(島田記者)

「一応所有者さんの方には、依頼の通知を送ったりはしてるんですけども。」(白浜町建設課・佐藤充洋さん)

「10年以上放っておくと、こうなってしまいますか、建物は。」(島田記者)


2015年施行の「空き家特措法」に基づき、自治体は、「空き家」の所有者に対し、「指導・勧告・命令」を行った上で、改善がなければ、行政代執行で強制撤去することができます。しかし、椿楼の撤去にかかる費用は、なんと7000万円以上…


「代執行すればいいじゃないかと結構言われる時もあるんですけども。じゃあ放っといたら町が何とかしてくれるかみたいな、そういう風に思われるのも嫌なので、なかなか・・・そういった部分でも手を付けられない状態でもあります。」(白浜町建設課・佐藤さん)


放置すれば住民を危険にさらし、撤去すれば財政を圧迫する…「廃虚旅館」のジレンマ。


「うわうわうわ・・・何かすごいことになってますね。」(島田記者)

「台風とかも何回もあって。こういう風に外壁がどんどん剥がれ落ちて。で、今の状態に至っていると思います。」(白浜町建設課・佐藤さん)


「廃虚旅館」のような「空き家」を、民間業者が解体する場合、上限はあるものの、国が費用の5分の2、地方自治体がさらに5分の2、支援する制度があります。白浜町では、これを利用し、粘り強く所有者に働きかけていくということです。


「こちら所有者さんと話がつきまして、一応解体予定にはなっております。依頼すれば、やはり対応してくれる所有者さんとかもいてるんで。そういった空き家に対する活動というか、どんどん続けていきたいと思っています。」(白浜町建設課・さん)


「こう見るといい景色ですよ。こんな素晴らしい景色を目の前で見ることできるわけですからね。」

北陸のあの温泉郷でも…

「私、山代温泉、初めて来ましたが、今、目の前に現れた、なんか白亜の殿堂みたいな、立派な建物なんですが、もう閉鎖されています。正面玄関のところにロープが張られて。」(島田記者)

石川県加賀温泉郷・山代温泉。北陸道を降りて、最初に目にする建物が、この「松籟荘(しょうらいそう)・千味万彩」。2010年に事業を停止し、破産しました。


「『当分の間、休館させていただきます』と書いています。当分の間と言っても、おそらく7、8年、10年近くは休館しているんじゃないかと思います。山代温泉に到着したなと思って初めて見るのが廃虚っていうのはちょっと物悲しいですね。」(島田記者)


関西の奥座敷と呼ばれる、北陸随一の温泉街にも「廃虚旅館」が広がっていました。


「塀がもう、こんな落ちちゃって割れっちゃって、ここなんかもう、なんですか、これ。ゴミ不法投棄ですよ。電子レンジはあるわ、テレビはあるわ。まぁペットボトルも缶も、ほおってある。もっとうまくやったら、どんどんお客さん呼び込んで、にぎやかにねぇ、発展したんじゃないかと思うんですが、やっぱり難しかったんですかね。」(島田記者)


山代・山中・片山津の温泉街を擁する加賀市には、「廃虚旅館」が、9軒もあります。全国的に見ても、20年でおよそ3万軒の旅館が姿を消しました。


「二代目が多いでしょ」(住民)

「経営者の2代目」(島田記者)

「息子さんがね、それはだめ。つぶれる」(住民)


「あれ壊す言うたら、大変なことじゃない?裏側、民家があるからね。表は道路でしょ。どっちにしても危険ですわね。」(住民)

「結局が、そういうような旅館がありますと、さびれた感じがしますんで、主がいなくなった風景が少し、寂しゅうございます。」(住民)


「廃虚旅館」の負の連鎖から、街を守る。加賀市が動き出しました。


「一応、決めましてね、国のその空き家対策の法律を活用して、それをまず、取り壊してですね。」(宮元 陸・加賀市長)


加賀市は、松籟荘の所有権を取得し、空き家対策事業の補助金も利用して、「撤去」することを決めたのです。

「ちょうど山代温泉のど真ん中なもんですからね、景観を阻害するということと、もう一つ、一番大事なのは、危険な建物になりつつあると。シンボル的なものは早く取り掛からないといけないということで、今、方針は固めました。」(加賀市・宮元陸市長)

北陸最大級の旅館が復活

 一方で、「民間」の力も、大きな役割を果たそうとしています。これまでも、名だたるホテルチェーンが、老舗旅館の再生を手がけ、客足が復活する中、今、まさに動き出そうとしている「巨大旅館」があります。それが…6万6000平方メートルの広大な敷地に、224室の客室を誇る、「みやびの宿・加賀百万石」。関西でおよそ40軒のホテル・旅館を経営する「ビッグ総合開発」金沢会長が再生し、去年12月にオープンさせました。


「もちろん、こうして床を張り替えてますんで、きれいに見えますが、埃だらけと、シミだらけと、大変な状況やったですね。」(「ビッグ総合開発」金沢孝晃会長)


北陸最大級の老舗旅館「ホテル百万石」が経営破綻したのは2012年。その後、放置され「廃虚旅館」に。広大な庭は、「森」へと変わりつつありました。


「まだ撤去してないんですが、撤去するのもお金かかるんで、こっちもこのぐらいでおいてるんですわ。」(金沢会長)

「これ何ですか?」

「お湯貯めるタンクですわ、貯湯タンク。」(金沢会長)

「天井がですね、とてもそのまま使える状態ではない。中の電気の線、全部、盗っていってるしね。」(金沢会長)


廃虚となった旅館は、窃盗団の、格好の標的。電線、銅板、さらには風呂場の蛇口まで、金目のものはほとんど盗まれていました。

「40億円ぐらいであがらないかと思いましたが、結局50億になりそうですね。」(金沢会長)

50億円かけ、わずか1年足らずで巨大な旅館を再生させた、金沢会長。このスピード感こそ、「廃虚旅館」を、悪化させない最善の策なのです。


「まだ解体中ですね。ここにプール作るんですよ。プールになる。」(金沢会長)

「これがプール。」

「そう。これが3カ月でできるかどうかですね。なんとか頑張ってやりたい。」(金沢会長)


歴史が育んできた、「温泉旅館」の文化。その火を消したくないと金沢会長は語ります。


「立派にはやらせて、民泊やとかね、新しいホテルがどんどん建てさせるということだけじゃなくて、既存のホテル旅館の再生に注目していただきたいと、こういう成功例があるんだと、いうことを示したいですね。」(金沢会長)


「いやぁ、加賀百万石のお湯、きりっとしてますね。ちょっと熱めで、空き旅館にしといたら、本当にもったいなかったですね。復活して本当に良かったです。気持ちいい!気持ちいいですよ!」


時代の流れで、「廃虚」と化した温泉旅館。「再生」への道のりは、まだまだ、これからです。

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