手塚「彦坂さんは愛知万博の長久手日本館、瀬戸日本館を始め政府出展事業のクリエイティブ統括ディレクターを務められています。長久手日本館は竹の籠で包まれていて、繭の形をしていますが、どうしてあの形になったのですか?」彦坂「博覧会のパビリオンは、大阪万博の頃から、目立つ建物で中に入ると違う展示をしているというようになっていました。それがそろそろ飽きられたと思ったんです。なぜかと言うと現実の都市がそのようになっていますから。また今回は“地球環境博”です。建築というのは土木に次いで環境をいじります。ですからそこも念頭に、また地球環境にとって我々の生活レベルで適用できるアイデアを取り入れて...。で最初にひらめいたのが二重皮膜という言葉です。分かりやすくいうと地球がそうですね。オゾン層があって大気がある、それで生命を守っています。そういう物を建築で考えられないかと思って設計しました。 外側の竹籠はすかしになっていて、それは日よけの役目もします。昔のすだれと同じ効果なんです。なんで繭の形かと言うと別に四角でも良かったんですが、人間の記憶の中にある形、例えば貝殻や卵の形。それを見ると幾何学的にデザインされた物を超えた何かを感じると思うんです。それともう一つ、中の建物は四角で外が三次元曲面を持っていることで、空気の流れが出来ます。それらすべてを合わせてあの形になりました」手塚「いろんな意味と取り組みがあってあの形になったんですね。日本はヨーロッパから見るとエコ大国なんです。特に明治維新以前は。日本の木造建築は日当たり、風通し、水はけが良いんです。ですから日本の伝統的な物と自然の叡智を、もう少し現代的に表現した物と考えていただけると分かりやすいと思います」
手塚「環境デザイナーとはどういったお仕事なんですか?」彦坂「建築家と環境デザイナーを併記しています。英語で言えば"architect"の一言で済むんですが、なかなか分かってもらえないのでそれで通しています。日本で建築家というとビルを造っている人というイメージがありますが、僕がやっている仕事はもっと幅があります。例えば建物の設計だけなら建築家で済みます。ところが僕はコンセプトを作って、建物を造り展示をし、映像も手掛けています。そうなると単純に建築家とは言えないんです。また環境というのは時間と空間から出来ています。で、それをどうやって演出するか、という意味を込めて環境デザイナーというのを付け“建築家、環境デザイナー”と併記しています」
手塚「現状の地球環境の中で、どのような建築物を造っていくべきだと思いますか?」彦坂「僕は都市デザインも手掛けています。それは短くても何十年というスパンなんです。そうすると自分が生きているうちに終わらないということがあります。でそこに対する想像力がどこまで持てるかという気はしています。僕が今欲しいのは近視眼的な側面、今をどうするかと言うことと、百年2百年先を見通せる想像力その2つです。長いスパンで物を考えられれば今、目の前で決定するべき事の選択肢が増えるんです。それが出来るようになることが一番大事だと思っています」