岐阜県大野郡白川村にあります、トヨタ白川郷自然学校の取材レポートをお送りします。 白川郷は、岐阜県の北西、富山県との県境にあり「世界文化遺産」に登録されている合掌造り家屋の集落と、白山国立公園などの美しい自然で知られる地域です。大阪から車ですと、名神高速道路と東海北陸自動車道を乗り継いで約4時間。飛行機ですと富山空港から車で約1時間の所です。 トヨタ白川郷自然学校はその豊かな自然に恵まれた土地に今年4月、開校しました。名前に「トヨタ」とあることから分かるように、トヨタ自動車が出資し運営はトヨタと白川村、そしてNPO環境教育フォーラムなどが共同で設立したNPO法人「白川郷自然共生フォーラム」が担当しています。
この自然学校のセミナーハウスは「自然エネルギー100%活用」を目指して様々な環境技術の活用にトライしています。風力発電や太陽光発電、冬に建物の地下に雪を溜めておき、夏の室内冷房に使う「雪室冷房」や間伐材を使って燃料となるペレットを作るための製造機なども設置しています。
手塚「この学校の概略をご説明ください」校長、稲本正さん「泊まりに来ていろいろな自然と親しむプログラムがあって、おいしい食事をして、温泉に入る。都会の雑踏の中で暮らしている人たちが本当の意味でリフレッシュ出来る施設です。ですから入学試験も無ければ、卒業証書も出ません(笑)自然と深く親しむきっかけ、自然とどう関わればいいかを学ぶ所です」手塚「見た感じはリゾートホテルですね。お部屋も立派ですし」稲本「日本に自然学校は4千近くあります。でも今までは廃校になった校舎に手を入れて施設を作っていました。でも海外のそういう施設はゆったりしています。それを見学して、モデルにして作りたいなと思っていたら、これが出来たんです」
手塚「本格的なフランス料理が食べられる施設があって、ビックリするぐらいおいしかったんですが...」稲本「シェフはアラン・シャペルの系列で、食材も地元のものを使っています。例えば魚は富山から、肉は飛騨牛、野菜は地元の農家から。シェフが農家の方の所に行って、こういう料理を作るからこういう野菜が欲しいとお願いするわけです。作る方もどういうように食べられているか分かるので、作り甲斐がある。そうやって白川の野菜のレベルアップをしていこうと思っています。そもそもなんでフランス料理を始めたかというと、地元はおそばとか日本料理がメインの所。そして合掌造りの民宿がある。僕たちは自然ともそうですが地元とも共生しなければいけないので、地元の意見を良く聞いて、地元に無いものということでフランス料理、部屋も民宿は日本間が多いので、こちらはベッドにしました」
手塚「人気のプログラムをお教えください」三原「野山に出かけていく散策もの、朝食前に出かけるモーニングガイドですとか、夜に出かけるナイトハイクが人気です」手塚「人気のポイントは?」三原「手軽に参加出来るという所。モーニングガイドは参加するだけで旬の自然が分かるという所ですね。ナイトハイクは星空と静けさを堪能できるところです」
手塚「自然体験プログラムを通じて、お客さんにどんなことを感じてお帰りいただきたいと思いますか?」三原「ここの自然に愛着を持っていただき、もう一度来ていただきたいというのが私達の思いです。お客様がここにいらっしゃる理由は“自然を満喫したい”と言うことと“リラックス”したい。ですからその2つのご要望を満たせるようにプログラム中も工夫をしているつもりです」
“トヨタ白川郷自然学校”は“自然との共生”を目指すため、地元の自然を体験できる様々なプログラムが用意されています。例えばこれは春夏秋冬それぞれの野鳥を観察する“野鳥ガイドウォーク”。ツキノワグマ、カモシカ、ノウサギ、さらに絶滅危惧種であるウサギコウモリ等学校の敷地内に生息する動物の生態に近づきその生き方を探るプログラムがあります。 そういったプログラムの中で今回は人気の高い“モーニングガイド(左写真)に参加しました。これは朝食前に約1時間半ほどインタープリターと一緒に散策するプログラムです。案内してくださったのはチーフ・インタープリターの山田俊行さん。バンダナ(下の写真)に描かれている木や葉っぱを私たちに紹介してくださいました。
手塚「このモーニングガイドは特別なアウトドア用品や服装が必要ではなく、ハイキング程度の装備で参加できます。都会では聞けないような野鳥の声があちこちでしていて、それを聞くだけでも別世界に来たように思いました」
今回は校長の稲本正さんにお話を伺いました。稲本さんは1945年富山県生まれ。1969年に立教大学理学部を卒業後、大学に勤務。その後長野県に山小屋を造り工芸村構想を立て、1974年には飛騨高山の農家の納屋を出発点に、オークヴィレッジを創設。環境庁“環境と文化に関する懇親会”委員、日本環境フォーラム常務理事、林政審議会専門調査員なども歴任されています。 手塚「ここの建物は、外観が合掌造りのようで、 天井が高くて窓が大きく柱も木が使われています。この建物のこだわりは?」稲本「木で出来ているということは環境に良いことなんです。このテーブル(写真)も木で漆が塗ってあるんだけど、金属のテーブルの方が木で作るよりも100倍エネルギーを使うんです。だからどうせやるなら自然学校だから自然素材を使って、ゆったり出来て、気持ちのいい家具や建物にしようと。またここに来た人には木を植えてもらっています」手塚「何十年後かにここに来たら森になっているかもしれない。それはいい記念になりますね」稲本「木の家具は森に繋がっているということは誰でも分かるでしょ。だからそういう状況に入ればストレス解消になります。前に“ツリーハウス”という木の上に家を造るというプログラムをやりました。最初は子供のためだったんだけど、2回目からは中年以上の男性ばかり集まって...。その中に自分の会社が危ないという社長がいて、彼は小さい時から木の上に家を造るということが夢だったらしい。みんなと一緒に汗をかいて家を作ったんです。そうしたら今まで小さいことに見栄を張って生きていたということに気が付いて、もう一度一からやり直そうと思ったらしい。人生を見直すきっかけになる場所だと思うよ」
手塚「我々大人が人生をリセットするためにこういう所に来て、自然から何かを貰って人生一からやり直す...自然から受けるものによって人間の生き方が大きく変わるものだと改めて感じます」稲本「自然の中で生きる時は自分で考えなければいけない。受験勉強は典型的なんだけど、5つのなから正しいものを選びなさいって、5つが決まっていて確実にここに正しいものがある。でも人生とか自然は5つとかではなく無限の中から答えを選ばなくてはならない。本当の意味で生きているというのを実感するのが自然学校なんだよね」