小林武史さんは、2003年、ミスター・チルドレンの桜井和寿さん、そして坂本龍一さんたちと共にap
bank という市民バンクを設立しました。これは、小林さんたち自らが資金を出し合い、自然エネルギー、省エネルギー、そして地球環境に関するさまざまなプロジェクトに対し、低い金利で融資をしていく非営利目的の銀行で、すでに2回の融資プランの募集を終えるなど、具体的な活動もスタートしています。
小林さんが
ap bank の設立に至るまでの経緯についてうかがいました。
手塚「もともと環境問題とか、持続可能な社会、というものに関心はあったのですか?」小林「ぼくがやってきたロックという音楽は、刹那的な快感、というものが魅力になっているところがあります。例えば、大音量だとか、音のグルーヴが気持ちいい、というような。若い時には、音から何が生まれてくるのか?その瞬間をキャッチすることに夢中になっていた時期がありました。ぼくにとっては、それがリアルなことだった。ですから、未来まで長いスパンで物事が続いていく、ということに責任を持つ、という態度で生きていたわけではありませんでした」
手塚「何が、小林さんを変化させたのですか?」小林「大きなきっかけになったのは『911』事件ですね。ぼくは、1990年代にアメリカのスタッフとレコーディング・チームを作って、スタジオも持って、家族をつれてニューヨークに住んでいたのですが、21世紀になって『911』事件が起きて、さまざまな問題が露呈してきました。たとえば、エネルギーの問題と戦争というのは繋がっているんだ、ということとか、南北問題とか。全員で経済的に豊かになっていこう、ということは幻想で、現実には誰かが得をすれば、一方で誰かが損をするし、地球環境を傷つけてしまうという側面もある。そういう、みんなが薄々感付いていたことを、切実な問題として突きつけたのが『911』事件だった」
手塚「その後、アーティストによる自然エネルギー促進プロジェクト、『Artists'
Power』へ参加されるわけですね?」小林「これは、アーティストとしての影響力を自然エネルギー普及に作用させようというもので、坂本龍一さんの呼び掛けでスタートしました」
手塚「そして2001年から『Artists'
Power』のメンバーを集めて、環境問題に関する勉強会を始められたんですね?」小林「‘啓蒙'なんていう上からのものではなくて、もっと目線をさげた、リアルなこととつながっていたい、という思いが、ぼくの中にあったんですね。だから『Artists'
Power』のメンバー同士でメールのやり取りをするだけではなく、実際に顔を合わせて、みんなが何を考えているのか?を感じたかったし、環境問題に関する勉強会をやって、今、何が起こっているのかを知りたかった」
手塚「勉強会というのは、具体的にはどんなものだったのでしょう?」小林「実際にNPO、NGO活動をやっていらっしゃる方たちを講師として招いて、環境問題に関するさまざまなテーマについて勉強していく、という会でした」
手塚「この勉強会の中から、自然エネルギー、省エネルギー、そして地球環境に関するさまざまなプロジェクトに対し、低い金利で融資をしていく非営利目的の銀行である、ap
bank の設立という考えにたどりつくわけですが、環境問題の解決にトライしていく、さまざまな方法の中から、ap bank の設立というやり方を選択したのは、どういう理由からだったのでしょうか?」小林「ぼくらの勉強会に『未来バンク』という市民バンクの理事長である田中優さんが講師としていらっしゃったことがあるんです。そのとき田中さんは“これだけのアーティストが集まってなにかをやろうとするならば、自然エネルギー推進活動をしている人たちに融資をする、というやり方も選択肢のひとつとしてあるのでは”ということを話されたんです。ぼくが持っているお金を銀行に預金しても、それがどんなことに使われるのか、ぼくたちにはコントロールできない。それならば、地球環境の問題に貢献しているところにだけ融資、運用される銀行をぼくらが設立する、というのはどうか?というアイディアがとてもリアルなものに感じられたんです。このやり方ならば継続していけると思えたんですね」
手塚「多くの人たちが、環境問題について自分になにができるのか?を考えるきっかけになりそうですね」小林「ぼくら、ひとりひとりが未来に対して責任がある、ということ。そして全部がつながっている、ということ。もっとよくなっていきたいと思うんだったら、少しずつなにかを変えていくこと。そうしたことを脹らませていける小さな場を作り、そしてそれを続けていきたかった。それが
ap bank を作った、ぼくらの思いなんです」
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