鈴木幸一
手塚「親御さんの反応は?」矢野「初等部や男子部では月に一度、親御さんに食事作りに来て貰っています。そうすると生徒みんなが自分の子供のような意識になります。また親御さん同士の会話も進み、良い連帯感が生まれています。女子部は生徒達が作っているので、そのような感じにはなりませんが、働いているお母さんの代わりに生徒が、食事を作っているという話を聞きます」手塚「料理が得意でない女性が私を含めて増えていますが、こういうのはいいことだと思います」矢野「花嫁修業ということではないのですが、人として世の中にでていく時に、食生活をキチッと考えることが出来るというのは大事なことですから」
手塚「自由学園の創立の経緯についてお教えください」矢野「創立者の羽仁吉一、もと子が独立して出版社を作りました。それは家庭生活の合理化や、社会問題に対する女性の啓蒙意識を広めるという内容でした。夫婦には2人の子供がおり、その子達が学校に通っている時に、当時の教育に疑問を持ち、自らの理想とする教育の場を作ろうと思い立ち作りました。それで自分たちの雑誌で呼びかけ、全国から26人の生徒が集まりました」 手塚「教育理念についてお教えください」矢野「創立者の言葉で“思想しつつ、生活しつつ、祈りつつ”これが学校のモットーです。また“生活、即、教育”という言葉も残していて、1日24時間、生活全部が勉強の機会なんだという意味です。自分達のことは自分達でするというのが基本的な理念です」
手塚「女子部の食事を作っている時間はどういう時間割なんですか?」矢野「家庭科の時間としています。クラスの半分が料理をしている間、残りの半分は裁縫をしています。午後は裁縫をしていた生徒が後片づけをし、料理を作っていた生徒が裁縫をしています。他の学校に比べると生徒一人あたり4時間の家庭科の時間というのは多いと思います」手塚「男子部は?」矢野「裁縫はあまりしていません。中1でボタン付けなど簡単なことはやります。それと洗濯の仕方ですね。あとは産業の時間というのがあります。これは畑・果樹・養豚・養魚・椎茸の五つのグループに分かれて勉強しています。この学校は受験勉強はしませんので、受験のテクニックを覚えない分そういうことに時間を割いています」」
手塚「この学園で高等部まで過ごされて、他の大学を受験される生徒さんもいらっしゃると思うのですが、そういう生徒さんはどのようにしているのでしょうか?」矢野「私たちは基本的には大学部に進学することを期待しているので、受験指導はいっさい行っていません。ですから“自分でやりなさい”ということになります。ただ教えるべきことは教えていますので、後は受験の訓練という勉強をすれば、受かると思います」
手塚「自立した人間というのは具体的にどういったことを目指しているのでしょうか?」矢野「世の中では指示待ち人間とか、マニュアル人間とか言われています。私たちは“自分の頭で考える。自分の体を使って動く。心を働かせて気がついたことをする”こういうことができる人が、自立した人間だと思っています」
手塚「最後に親御さんにメッセージを...」矢野「私達教育に携わる者としては、教師として生徒に関わっていますが、大事なのは家庭教育だと思います。親子の間のつながりという物を大事にして欲しい。その第1は声をかけることだと思います」